2011年10月1日土曜日

アマゾンにすり寄る米出版社、だが決して甘くないアマゾン


アマゾンにすり寄る米出版社、だが決して甘くないアマゾン

アマゾンのタブレット「Kindle Fire(キンドル・ファイア)」が発表された。予測通り7型のカラー液晶画面を採用しているが、価格はうわさの250ドルではなくて199ドルと安い。小型ではあるがiPadよりも300ドルも安いのだ。

さっそく、キンドル・ファイアのTVコマーシャルを見てみた。



 iPadと同様、マルチメディアプレイヤーを売りとするデバイスである。プレスリリースでも、映画、 TVショー, 音楽, アプリ,ゲーム, 書籍、そして雑誌などの、1800万を超えるデジタルコンテンツ全てを、キンドル・ファイアで楽しめると売り込んでいる。またアマゾンのテストを受けたキンドル・ファイア向けのアプリ(無料あるいは有料)がアマゾンから毎日のように提供されいくという。

 TVコマーシャルの中の以下のスナップショットでも紹介されていたように、ここでは雑誌コンテンツに注目したい。従来のモノクロのキンドルは雑誌向けデバイスとして向いていなかったが、カラー化した安価なキンドル・ファイアを武器に、アマゾンは電子雑誌市場に本格的に参入し、アップルと激しく戦うことになる。

KindleFireeTVCM20110928.jpg

 電子雑誌向けのデバイスとしては事実上、これまでアップルのiPadに独占されていた。だが、iPadの出荷台数がまだ少なく、それにアップルが提示するパブリッシャーへの要求があまりにも厳しくて、ほとんどの雑誌社は電子版雑誌事業に思い切ってアクセルを踏み込めないでいた。そこに電子雑誌向けデバイスとしてiPad対抗馬のキンドル・ファイアが現れたのだから、米国の大手雑誌社が歓迎したのは言うまでもない。アップルへの牽制の意味もあって、アマゾンにすり寄っているのだ。それに応えるようにアマゾンもTVコマーシャルで、Hearstの「Marie Claire」やConde Nastの「Vanity Fair」の人気雑誌を登場させ、大手雑誌社と友好的な間柄にあることを知らしめているのである。

 特に、アマゾンと提携することをわざわざプレスリリースしたHearstは、アマゾンとの連携を深めていきたいようだ。電子雑誌事業が軌道に乗り始めているから、なおさらだ。同社雑誌のデジタルレプリカ版電子雑誌の有料定期購読者数が、ABC's Rapid Report(June 2011)により次のように明らかになった。
Cosmopolitan : 81,690
Popular Mechanics :21,725
Esquire:20,997
O, The Oprah Magazine :12,567
 同社としては、新たに加わる電子雑誌の販売チャンネルとして、キンドル・ファイア(+キンドルストア)に期待を寄せるのは当然である。

 また、Condé Nastも気合が入っている。「Vanity Fair」、「GQ」、「Glamour」を含も17タイトルの電子雑誌を、キンドル・ファイアのユーザーに3ヶ月間無料で楽しめる試読サービスを提供する。Meredithは人気雑誌「Better Homes」の電子版を、キンドル・ファイアの出荷時に合せて提供していく。

 
 このように大手雑誌社がアマゾンにすり寄っているのだが、雑誌社はアップルとは違った販売の好条件をアマゾンから引き出せているのだろうか。アマゾンは3ヶ月前から雑誌社と交渉を始めている。たとえばHearstはアップルとの交渉が非常に円滑に進んだとのコメントを出しているものの、どのような条件で成立しているかは明らかになっていない。雑誌社の声をまとめると、アマゾンもアップルの条件とあまり変わっていないようである。売上の約30%をアマゾンが手数料として徴収するし、ユーザー情報の扱いもアマゾンが少なからずコントロールしていく。ただ一部のパブリッシャーによると、ユーザーのeメールアドレスをパブリッシャーも共有できるようになっているという。だが一方で、コンテンツの価格決定においては、アマゾンのほうが厳しいと漏らすパブリッシャーも現れている。

 アマゾンの方がパブリッシャーに対して厳しい条件を突きつける場合がもともと少なくないとの声もある。アマゾンのビジネスの目標は、できるだけ多くのコンテンツを売ることである。デバイス(キンドルなど)は多くのコンテンツを売るための支援ツールで、デバイスで儲けるのがかならずしも目標ではない(片やアップルはデバイス(iPadやiPhone)で儲けていこことも目標にしている)。このため、キンドル・ファイアを200ドルを切る価格で安売りできる。一方でコンテンツの価格については口出しをするし、特に定期購読料金については注文を付けることが多い。コンテンツを売る機会を増やすために個人出版を支援する場合もあり、既存パブリッシャーと競合することも起こりうる。雑誌社にとって、甘い存在ではないのだ。


 どうもオンラインパブリッシャーはアップルやアマゾンのようなメディアプラットフォーム(アプリショップ+デバイス)に対して弱い立場に置かれている。アップルやアマゾンは、映画、 TV, 音楽, アプリ,ゲーム, 書籍、雑誌、新聞などのあらゆるメディアのデジタルコンテンツの流通をコントロールしてしまおうとしている。一つのID(アカウント)であらゆる種類のデジタルコンテンツを、アップルやアマゾンのオンラインストアで購入できるようになっていく。ユーザーにとって便利になるかもしれないが・・・。オンラインパブリッシャーはコンテンツ販売の場として、アップルのApp StoreやアマゾンのKindle Storeに頼らざるえなくなる・・・。


 そこで、「モバイルアプリがオンラインパブリッシャーを殺す?」(Outbrainの創立者Yaron Galai氏)という発言も飛び出してきた。

◇参考
Magazines Climb on Kindle Fire's Wagon(WSJ)
Kindle Fire: Meet the new boss, same as the old boss(GIGAOM)
Amazon Tablet Revealed: Kindle Fire(Folio)
Introducing the All-New Kindle Family: Four New Kindles, Four Amazing Price Points(プレスリリース)
Is the app economy killing online publishers?(GIGAOM) 

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